耐震設計(なんでもインフォ)

なんでもインフォ2023年09月号 画像クリックで原稿を閲覧できます。

1.関東大震災と耐震設計のはじまり

 今から100年前の1923年(大正12年)9月1日、関東地方南部が震源とされる巨大地震は、密集していた木造住宅に広範囲な火災をもたらすなどの被害により、死者・行方不明者は10万5千人余にのぼりました。当時の政府は1919年に「市街地建築物法」を制定し、世界初の耐震設計基準を示していました。ここに用いられた耐震設計の理論は、1916年に佐野利器助教授(東京大学)により提案された「震度法」に基づき、地震により構造物に生じる影響を静的な荷重(慣性力)に置き換えて、構造物に作用させる設計手法でありました。道路橋の分野においては、「橋台・橋脚の耐震化の方法」、「道路構造に対する細則案」といった基準に同様の設計法が記されました。静的な力の大きさは、若干の変動を経て、昭和14年の「鋼道路橋設計示方書案」において、水平震度0.2(鉛直震度0.1)が標準とされました。即ち、自重に対してその0.2倍の大きさの水平力に耐え得る強度が求められたということです。しかし、世界恐慌や戦争の余波により、日本における耐震設計の技術はその後長らく停滞することとなりました。

2.戦後の発展

 1971年の「道路橋耐震設計・同解説」には、戦後の研究成果を踏まえ、震度法に種々の改良を加えた「修正震度法」が盛り込まれました。従来一律に定められていた設計震度に対し、地盤・構造物の固有周期や地域による特性の違いを考慮した補正が施されました。
 1980年に「道路橋示方書」に「耐震設計編」が追加され、1990年に改訂されました。この際に、より複雑な構造物の設計が要求される時代の変化に応じ、動的解析についての記述が加えられました。

 

3.阪神淡路大震災と2段階設計法の導入

 不適切な設計によって人的被害が発生するような事態を避けるべきであることは言うまでもありませんが、大規模地震に対する損傷が全く発生しない程の強固な設計を全ての構造物に適用することは経済性の観点から現実的ではありません。そこで、実際の耐震設計では、「どの規模の地震に対して、どの程度までの機能を確保させるか(裏を返せばどの程度までの損傷を許容するか)」を、各構造物に対し、経済性と安全性のバランスに配慮して設定することが妥当といえます。この理念に基づき、地震作用をレベル1、レベル2の2種類(表-1参照)に分類し、それぞれのレベルに応じて要求性能を定める「2段階設計法」が、1981年の建築基準法から導入されました。
 1995年(平成7年)1月17日の兵庫県南部地震は死者6,400人余、全壊家屋約104,900棟という甚大な災害をもたらしました。建築構造物では1981年の建築基準法施行以前の建物が、道路構造物では1971年以前の基準に基づいた高架橋が特に大きな被害を被ったとされます。この事態を受け、道路橋示方書でも、1996年の改訂より本格的に2段階設計法が規定されました。
 構想物の評価は、複雑な構造や特殊な形状を有する場合を除き、レベル1地震動には許容応力度、レベル2地震動には、保有水平耐力法が適用されます。構造物のじん性(ねばり強さ)と破壊形態を考慮して算出されるせん断耐力が作用力を上回ることを照査する、保有水平耐力法が適用されます。

4.最近の動向

 2011年(平成23年)3月の東北地方太平洋沖地震では、マグニチュード9.0の地震が大規模な津波を引き起こし、更に液状化、大規模停電、火災、原発事故等の2次災害が、東北、関東地方に長期的な被害を及ぼしました。
 2016年(平成28年)4月の熊本地震では、14日と16日にマグニチュード6.5、7.3の大規模地震が立て続けに発生し、被害が集中した地域では、落橋や損傷を受けた橋の速やかな機能回復を実現できず、支援物資輸送に支障が生じた事例もありました。
 甚大な自然災害が続くなか、2017年に道路橋示方書が改訂され、限界状態設計法、部分係数法に基づく内容へと全面的に改められました。従来より能動的な設計思想へと転換されたことで、設計の自由度は高まる一方、技術者一人ひとりの、耐震設計に対する本質的な理解の蓄積と更新がより一層求められることとなります。なお、今年度の予定とされる道路橋示方書の改訂についても、注視していきましょう。

主要参考文献
土木学会,実務に役立つ耐震設計入門,2011

 

 

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